人工関節置換術とは、変形性関節症や関節リウマチなどの疾患により高度に障害された関節の表面を人工の関節に置き換えて、関節の機能を回復させる手術です。人工関節は、主に金属やセラミック、ポリエチレンなどでできており、関節の痛みの原因となっている部分を取り除くため、「痛みをとる」効果が大きいのが特徴です。
当院では、主に股関節と膝関節に対して人工関節置換術を行っています。術後早期より疼痛が消失し、歩行がスムーズになります。
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人工関節置換術の当院の手術件数は、福井県では常にトップクラスの実績があり、以下の特徴があります。
人工関節にとって最大の問題は、長期の耐用性です。良好な術後成績を維持するためには、人工関節の適切な選択と設置が重要です。当院では、下記のような最新のコンピューター技術を取り入れた人工関節手術(CAS)を積極的に行っています。
患者様の骨の大きさや形状およびアライメントなどには、多種多様の個体差があります。どの大きさのどのタイプの人工関節を、どの位置にどの角度で設置するかを、術前に適切に予測することは決して容易ではありません。従来のレントゲン画像による2次元術前計画では不正確にならざるを得ませんでした。
そこで、当院では2016年よりCT画像を基に3次元術前計画ソフトウエアZedHip®(LEXI社)を用いて、個々の患者様に応じて、人工関節の適切な機種やサイズを選択し、適切な設置位置および適正な脚長差補正などを計画できるようになりました。
(臼蓋側カップ設置)
(大腿骨側ステム設置)
さらにこのソフトで、術後の可動域(ROM)シミュレーションも行うことができ、術後の脱臼予防にも非常に有用です。
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前述した3次元術前計画を忠実に再現して、人工関節を適切に設置するために、手術中にコンピューターナビゲーションを用います(図1&図2)。
ナビゲーション手術とは、①個々の患者さんに最適な人工関節の手術計画(手術前にCT画像を基に作成)をコンピューター画面上に映します。②手術中は手術器械を赤外線でモニターすることにより、実際には見えない部分もコンピューター画面に映し出します。その画面を見ながら手術することにより、人工関節の設置を計画通りに導いてくれる(ナビゲートする)手術です。
(図1)人工股関節置換術(THA)の術中ナビゲーション
(図2)人工膝関節置換術(TKA)の術中ナビゲーション
患者様の膝のMRI画像より、人工膝関節の3次元の術前計画(図1)を綿密に立てます。その上で専用の3Dプリンターを用いて、個々の患者様の膝関節の実体模型と、その形状に合った特注の骨切りガイド PSI (Patient Spesific Instrumentation) (図2)を作成して、正確に迅速に人工関節を設置します。
(図1)PSI-TKAの3次元術前計画
(図2)膝の実体模型と骨切りガイド (PSI)
2021年当院では、ロボティックアーム手術支援システム「Mako(メイコー)システム」を北陸・甲信越地方で初めて導入しました。ロボティックアームは術中に医師が操作をして動かすもので、個々の患者様のCTによる3次元術前計画を基に、人工関節を設置する際に傷んだ骨を削るために使われます。ロボティックアームは、術前計画にない部位にさしかかると止まる仕組みになっており、計画外の動きを制御することで、安全かつ正確な手術を可能にします。ナビゲーション手術の弱点である術者の手のぶれやヒューマンエラーを極力回避できます。
皮膚や筋肉の切開をできるだけ小さくすることによって患者様の負担が減り、術後24時間以内に歩行を開始し、術後2~3週間で退院するという早期離床・早期退院を可能にします。
腰の硬膜外腔に極細のカテーテルを挿入して、術後の痛みを持続的にブロックできる持続硬膜外麻酔を行っています。また、手術中に関節周囲多剤カクテル療法も併用しています。そのほか、アセトアミノフェン (アセリオ®) の点滴なども併用します。
これら様々な鎮痛方法を同時に行うこと(多角的疼痛管理:multimodal pain control)によって、術直後より関節の可動域訓練を痛みなく始めることができ、ほぼ全員の患者様が術後24時間以内に歩き始めています。
「フライト・ステリシールド」という3ミクロンまでの細菌・ウイルスと、0.1ミクロンまでの塵埃を除去する使い捨てタイプの防護術衣を着用して、患者様を感染から徹底的に守ります。また2023年より「T7 plus」を用いています。
抗菌薬でコーテイングされたモノフィラメントの特殊な生体内吸収糸(抗菌縫合糸:STRATAFIX® PDSプラス)で縫合することにより徹底した感染予防を行います。またこの吸収糸を非常に細かく真皮縫合するため、抜糸が不要で傷の治りも早く傷跡が目立ちにくくなります。
前述しましたが、人工関節置換術は関節の痛みを改善し機能を再建する手術として画期的な治療であることは疑いのない事実です。しかし、副作用が全くない薬が存在しないように、検査や手術という医療にも不具合が全く起こらないわけではありません。非常に稀な発生率ではありますが、手術の効果に反した不具合が生じる場合があります。これを「手術に伴う合併症」と呼んでいます。
人工関節置換術には下記のような合併症が考えられますが、その合併症に対する「当院の予防と対策」についてご説明させて頂きます。
手術は骨を削ったり切除したりする操作が必ずありますので、出血がある程度あります。
出血が多くなれば輸血の必要性が高くなります。
骨粗鬆症などで骨強度が非常に弱かったり、骨の変形が高度な場合、手術操作あるいは術後の転倒によって、人工関節周囲で骨折を生じる場合があります。
股関節や膝関節の手術の場合、坐骨神経や大腿神経ならびに腓骨神経領域のしびれや麻痺が偶発的に起こることがあります。ただし、ほとんどの場合は一過性ですが、回復に時間を要する場合もあります。
手術直後は出血と発熱によって脱水が起こりやすく、床上安静に伴う下肢の血流低下が重なるため、下肢の静脈内の血液が固まる(静脈血栓症)ことがあります。また、その血栓が運悪く血流に乗って、肺動脈で詰まってしまうと重篤な循環不全状態(肺塞栓症)に陥ることがあります。
※2 フットポンプ:Kendall SCD®
手術では、一旦関節を脱臼させた上で、人工関節を設置します。そのため、手術後早期は関節周囲の支持組織が弱っているため、股関節の場合、無理な肢位(足の位置)をとりますとまれに脱臼することがあります。股関節が脱臼しますと、通常痛みとともに立てなくなるか、歩けなくなります。その場合は静脈麻酔下にて徒手整復が必要となります。ただし最近では、下記の対策で人工股関節の脱臼は全く起こっていません。
身体の中に人工関節という異物が入るため、生体の防御反応が働きにくく、一旦感染が起こると細菌が繁殖しやすくなります。ごく稀ですが、手術した部位が赤くなったり、腫れたり、膿がでたり、熱が下がらないことがあります。これを「人工関節周囲感染 PJI:Periprosthetic Joint Infection」といいますが、人工関節には当然血流がありませんし、細菌が人工関節表面にバイオフィルムというバリアをつくることがあり、抗菌薬が効きにくく、治りにくい場合があります。
なお、PJIには、手術後1年以内に発症する早期感染の「手術部位感染 SSI:Surgical Site Infection」と、それ以降に発症する遅発感染があります。後者の場合、細菌が手術部位以外のところから血行性に移行して発症する場合もあります。
人工関節置換術は、骨と金属製の人工関節を接合させる手術のため、長期間人工関節を使用していると、関節に大きな負荷が繰り返しかかり、骨の強度が加齢とともに低下していくため、その接合部にゆるみが生じてしまうことがあります。
人工関節の耐久性に影響する最終的な問題で、「人工関節の永遠の課題」ともいわれています。今日の人工関節は、医学と工学のめざましい進歩によって、非常に摩耗しにくい材質へと改善されていますが、正常の関節軟骨に比べれば、まだ摩耗は起こりやすいといえます。人工関節が徐々にすり減りますと、摩耗粉が増えて、それが周囲の骨を吸収(骨溶解)する場合があります。なお、人工関節にゆるみがない限り、摩耗だけでは痛みがでることはほとんどありません。
※3 人工関節手帳
永久にもつ人工関節が理想ですが、人工物であるがために、残念ながら現状では耐用性に限界があります。人工関節の寿命は、手術前の患者様の状態や活動量・体重などによって異なります。現在、約80%の患者様は術後20年間人工関節の入れ換え手術(再置換術)が不要であるといわれています。また、近年の人工関節のデザインや材料のめざましい進歩によって、人工関節の寿命は年々伸びています。
しかし、以下のような状態が生じた場合には、人工関節の再置換術が必要となることがあります。
骨の中で人工関節がぐらついている状態です。ゆるんだ人工関節を抜去して、土台となる骨を修復して、新しい人工関節に入れ換えて固定しなおす必要があります。
人工股関節のゆるみに対する再置換術
人工膝関節のゆるみに対する再置換術
人工関節の絶えず動いている部分(摺動面:しゅうどうめん)が摩耗することによって、摩耗粉が発生し、周囲の骨を徐々に吸収(骨溶解)していくことがあります。骨溶解が広範囲にならないうちに、人工関節の摩耗した部分の交換と骨溶解に対する骨の修復再建が必要です。
人工股関節の摩耗と骨溶解に対する再置換術
感染早期や表層性の感染であれば、抗菌薬の点滴のみで軽快する場合が多いです。しかし、適切な抗菌薬を投与しても改善が得られない場合があります。そのような場合、人工関節を一旦抜去して病巣を搔爬・洗浄した上で、抗菌薬の入ったセメントスぺーサー(ALAC:Antibiotics Loading Acryl Cement)を挿入して、骨の内部から細菌を退治する必要があります。そして、細菌を完全に退治した後に、新しい人工関節を再度設置します。
人工股関節感染に対するALAC挿入と再置換術
人工膝関節感染に対するALAC挿入と再置換術
なお人工膝関節を抜去した後でも、元々入っていた人工関節と同じ形態のALAC(抗菌薬入りの骨セメント)スペーサーを設置することによって、本物の人工膝関節が入っているかのように起立・歩行が再現できます。すなわち当院では、人工膝関節を一旦抜去した後でも、寝たきりや車いすになることは全くありません。
人工股関節の脱臼を複数回繰り返す場合、反復性脱臼といいます。その際、人工股関節の部品を交換して人工関節の設置角度や長さなどを微調整することによって、反復性脱臼を制御できます。