再生医療とは、人が生まれながらにして持っている「自然治癒力」を利用した医療です。いいかえれば、自己組織を用いて損傷した臓器や組織・機能の修復を目指す医療です。整形外科領域における再生医療は、患者様ご自身の血液や脂肪などから“治癒を促進する成分”を抽出して直接患部に投与することで、自己治癒力を高めて組織の再生を目指します。
整形外科領域でもっとも効果が期待されているのは、変形性ひざ関節症に対する再生医療です。変形性ひざ関節症の治療といえば、痛みや炎症を抑える薬やリハビリテーションおよびヒアルロン酸注射などの保存療法が一般的です。しかし変形が高度になり、痛みが全く改善されないとなると、骨切り術(高位脛骨骨切り術)や人工膝関節置換術などの手術療法が必要になります。手術になりますと、2~3週間の入院は必要となり、手術に伴う痛みや合併症(出血・血栓・感染など)のリスクも伴います。
そこで、保存療法と手術療法の間をつなぐ新しい第3の治療として、この再生医療は位置づけられます。現段階で、再生医療は手術療法を上回る治療では決してありませんが、手術をせざるを得ないほどの変形や病状に進行させない、いいかえれば悪化させないためには、非常に有用な治療法といえます。
近年アスリートのスポーツ障害に対する有効性が急速に高まっているのが再生医療の一つであるPRP療法です。受傷後早期に競技復帰が可能になるという効果が期待されています。ヤンキースに所属していた当時の田中将大投手や現在大リーグで活躍中のエンゼルスの大谷翔平選手もこの治療を受けて話題になりました。ゴルフ界のタイガーウッズをはじめアメフトNFLのハインズウオードやバスケットボールNBAのコーヴィーブライアントなど超有名アスリートがその効果を実証しています。
スポーツ障害で傷んだ筋・腱・靭帯の損傷に対して、PRPに含まれる成長因子が組織の再生や創傷の治癒を促進してくれるものと期待されています。
※ 再生医療(PRP)以外の有効な治療として、体外衝撃波治療(ESWT)も近年注目されています。
再生医療には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
ご自身の組織を使うため、アレルギー反応や感染症のリスクがほとんどなく、安全性が高い治療です。注射後に腫れや疼痛などの注射反応がでることがありますが、通常は1~2日で自然に改善されることが多いです。
全身麻酔や腰椎麻酔などによる手術は一切不要です。すべて外来のみで治療できます。
効果の持続性が長いため、従来のヒアルロン酸やステロイドの注射のように頻回の通院治療が必要になることはありません。ただし、厚生労働省に定期報告の義務がある場合には、再生医療の治療後1・3・6か月・1年の経過観察のための来院は必要です。
治療前の診察は必ず必要ですが、ご高齢や基礎疾患のため手術が受けられない方でも、ほとんどの方が受けることができます。
再生医療はまだ新しい医療のため、医療保険の適応ではありません。全額自己負担となります。再生医療は準備・提供にかかる諸経費が高価なため、治療費も高額にならざるを得ませんが、当院では全国的にみてかなり低い治療費に設定しています。
ステロイド注射のような即効性はありません。再生医療はどちらかといえば、時間の経過とともに徐々に効果が現れてくる遅効性の反応が多いようです。ただヒアルロン酸やステロイドのような短期間の効果ではなく、長期間の持続性の効果が期待できます。
前述しましたが、注射後に患部が腫れたり痛みがでたりすることがあります。ただし、これは新型コロナワクチン接種後の注射反応のように、1~2日で回復する一過性のことが多く、日常生活にほとんど支障はありません。
治療を受けられた患者様すべてに同じ治療効果が得られるわけではありません。治療を受ける前の損傷の程度や再生医療の原料となる血液や細胞の状態、治療後の仕事や生活様式の違いなどの関係で、治療効果に個人差がでてきます。
最近学会では再生医療の治療成績がいろいろと報告されてきました。どのような症例にどの程度の効果がどのくらい持続するかについて、当院では常に新しい情報を集めています。一人一人の患者様の状態を見極めて、適切な治療をご相談させていただきます。
当院では、血液由来のPRP(多血小板血漿)療法と脂肪由来のASC(培養脂肪幹細胞)治療の2種類の再生医療を提供しています。
※当院は「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」を遵守し、下記の計画書を厚生労働省に届出し受理されている医療機関です。PRPとASCの2種類の再生医療が認可されたのは、北陸・甲信越地方では当院がはじめてです。
計画名 | 多血小板血漿(PRP)による関節治療 |
施設番号 | FC5190015 (受理日 2019年7月5日) |
計画番号 | PB5190011 (受理日 2019年7月31日) |
計画名 | 脂肪組織由来幹細胞(ASC)による関節治療 |
計画番号 | PB5210023 (受理日 2021年7月8日) |