当院では、日本で初めて承認された整形外科におけるロボティックアーム手術支援システムの「Mako(メイコー)」を、2021年10月より北陸・甲信越地方ではじめて導入しました。全国の医療機関では32施設目になります。Makoシステム(Stryker社)は、股関節と膝(ひざ)関節の両方の人工関節手術に保険適応が認められた国内初の手術支援ロボットです。世界ではすでに累計30万件以上の手術で使用されており、近年米国を中心に爆発的な広がりをみせています。
ロボティックアーム手術とは、「人の手の代わりに作業を行う機械の腕(アーム)」のことで、人が操作して動くものから自動で動くものまであります。このたび当院で導入したロボティックアームは、手術中に医師が操作して動かすもので、人工関節を設置する際に傷んだ骨を切ったり削ったりするために用います。決してロボットが遠隔操作で自動で手術をするわけではありません。
膝関節(TKA)用
股関節(THA)用
本システムでは、CTによる3次元画像データを基に綿密な治療計画を立てて手術前にインプットします。ロボティックアームは、治療計画にない部分にさしかかると自動的に止まる仕組みになっており、計画外の動きを制御することで靭帯や血管などの関節周囲の組織を保護して、安全かつ正確な手術を可能にします。
全例CT検査を行って3次元データを基に術前計画を立てるため、患者様それぞれの骨格や骨特性をよく理解した上での綿密で高度な治療計画を作成できます。
執刀医は手術中に靭帯などの軟部組織を含めた関節のバランスを定量的に把握し、それを基に骨切除量を検討して、設置位置をリアルタイムに最適化することができます。
ロボティックアームはコンピューターで制御されているため、0.5mm 0.5°レベルの正確な骨切りと血管・神経・靭帯などの関節周囲の組織を保護してくれるため、術中の合併症を回避してくれます。
※上記のほか、Makoシステムには下記のような大きな特徴があります。
当院では、これまでに3次元術前計画に基づいてナビゲーションを用いた人工関節手術を行ってきました。ナビゲーション手術は通常の手術に比べると、その正確性は非常に高いです。しかし、実際に骨を切ったり削ったりする操作は人の手で行うため、そこには微妙な誤差が生じる可能性があります。
自動車に例えると、今やカーナビはどの車でも搭載されていますが、カーナビで目的地まで誘導されても、実際の運転は人がするため、曲がる場所を間違えたり、何かにぶつかったりすることがあります。そこで最近では、コンピューター制御で衝突防止システムや車線をはずれないような機能が開発されたり、AIによる自動運転まで開発されつつあります。
ナビゲーション手術
ロボティックアーム手術
人工関節手術でもナビゲーションは正確な道標となりますが、それを実行している過程で、執刀医の手のぶれやヒューマンエラーなどで様々な誤差が生じる可能性が潜んでいます。その可能性を最小限にとどめ、予定した治療計画を忠実に再現できるのがロボティックアーム手術です。
これまでの研究において、ロボティックアームを用いた人工関節置換術では、人工関節の設置精度と手術手技の安全性が向上し1) 2) 3)、また人工膝関節置換術では疼痛の軽減4)、人工股関節置換術では術後の脱臼率の低減5) 6)などのメリットが期待できると報告されています。